爽やかな逃走

僕らの旅を「青春」なんて名付けて過去にすんな。

2017.12.11

空調が切れた。

雨雲がオフィスビルに流れ込んできて、

蒸した自販機のそばでは、

窓から先取りしたクリスマスが華やかで、

冬を嫌いになろうとした。

 

音楽は信仰に変わった。

思い出と一緒に信仰に変わった。

正しいとは何だろう。優しいとは何だろう。

そんなことを考えながら、

まるで自分とは違う誰かの、キーボードを打つ音が響いた。

 

明かりが消えない街。満員電車。ホームに落ちたキーホルダー。

切れかかったコンビニの電灯。

あの子が好きだったお菓子を買った。

たばこを吸う姿を思い出した。既読無視。舌打ち。

 

物質主義が蔓延。確かにあの頃はリアルだったか。

昔の夢を見る。だいたいツーアウト満塁。ベタだ。

上手く走れなくて終わる。結局、今なんだ。

 

本当は取り戻せるんじゃないか。

この怒りは原動力になるか。

君に嫌われたりしないだろうか。

僕は僕を嫌いになったりしないだろうか。

 

嘘はできるだけつきたくない。

後ろで見ている。影がずっと見ている。

 

ここに置いていくよ。全部。

このワンルームもただの掃き溜めとして。

 

もうすぐこの街を去る。

その日まで全部、捨てていく。

 

2017.10.09

 

目をつむってシャンプーをしてるときに何となくよぎった思いのまま、Instagram以外のSNSを全て消した。

 

Twitterと、Facebook

Instagram、写真が消えるのは忍びなかった。そう言えばLINEもSNSか。あれは仕方ないよな。

 

思い返してみれば随分と色んな「自分」を持っていたんだな。

 

社交的な自分。

モテたい自分。

仕事がしんどい自分。

本当はオタクな自分。

ゲーム中毒な自分。

 

どれもきっと本当で、それぞれが一人歩きするようなら、それはきっと全部嘘になる。

 

くだらない。なんてくだらないんだろう。

発信していた相手は、実は特定の人物だったりしたもんだ。アイツに、アイツに、遠回しに何かを伝えようとした。

 

嗚呼、なんてくだらない。

 

目と目、声と声、それ以外に、あんまり意味なんてないんだ。

 

電話をかけてでも話がしたい奴が、

結婚式に呼びたい奴が、

葬式に来て欲しい奴が、

いま何人いるかって話だろ。

 

それでも、皮肉なことにそういうツールで出会った友達も何人か居るもんだから、僕が此処から離れる前にもう一度くらいは会っておきたいなって思うんだ。

 

何があったわけでもない。

信じようと思うものを、少し減らしただけ。

自分の幸福を、一人称視点で見つめようとしてるだけ。

 

早く出ておいで。

 

 

2017.09.03

 

世界情勢は未だ不穏な空気を漂わせて、

日曜日、本日のトレンドは「核実験」。

 

平和ボケだとか、終末思想だとか、なんでもいいけど、

相変わらず政治家の揚げ足を取ってトピックを埋めるマスメディアを横目に、

僕はと言えば、東京を中心に広がる4色の円を眺めていた。

 

どうせ端っこに居たって、

どうせ遠くの地に居たって、

どうせなら一番真ん中で。

 

真っ黒い溜息がワンルームに飽和して、

耐えられなくなって外に出た。

 

散々嫌ったこの街も、

こんな日ばかりは空気がおいしくて、空が青くて、

明日が来ることを願った。

月曜日は嫌いだが、それでも願った。

そろそろ、笑い事じゃなくなってきた気がするから。

 

綺麗な星空で悩み事がどうでもよくなったなんてよく聞くが、

日常の終わりが上空をかすめて今を噛み締めるなんて、なんて皮肉だろうか。

 

美味しそうなケーキの写真がタイムラインに流れた。

きっと、知らない方が幸せなんだよ。

 

 

「上空を通り過ぎたミサイルは 未だ誰の心にも落下せず」

ミサイル/amazarashi

 

 

 

2017.08.02


想像ではもっと晴れやかな気持ちのはずだったんだが。
これは後悔か、罪悪感か、はたまた失望か。

 

未来は明るいかな。これからどうなるんだ。
そんなことを考えながら、小雨の中を、傘を蹴りながら歩いた。

 

イヤホンをつけて再生ボタンに指を近づけたところで、見知らぬおじさんに話しかけられる。道を聞かれたからスマホで調べてやったら「便利」だの「これからは若者が活躍する時代」だの「俺が若いころは」だの、あれこれと関係のない話を始めた。終いには「いいか!上司の言いなりになんてなるなよ!」と謎の激励。「日本の未来を頼むぞ!」と謎の責任転嫁。

 

「いやおじさん、俺、たった今辞めるって言ってきたところで」
「そんでな!俺が若いころはな!」

 

だめだ、聞いちゃいねえ。
まぁいいか。僕も少し気が紛れた。
聴こうと思っていた曲よりも少し明るめの曲を流す。

 

あいつ、本当は話相手が欲しかっただけなんだろうな。

 

 

 

少しだけ遠回りして仕事場へ戻ることにした。

 

僕は1年前、あの町を出て、この街で流されて、何度も後悔して、そして今日、ようやく自分で選んだ。今日は、初めて自分に勝った記念日なんだ。そう何度言い聞かせても、どうも気分が上がらない。

 

いっそ怒鳴ってくれれば良かったんだが、こんな時だけ妙に優しかった。引き留めたいが為かもしれない。それでもあの目は、大人が優しいときに見せる目だった。いや、もしかしたら最初からそうだったのかもしれない。目を合わせなかったのは、いつまでも拒絶していたのは、きっと僕のほうだ。本当はもっと上手くやれたんじゃないのか。これ以外にも、選択肢はあったんじゃないのか。

 

自分に勝ったとは言え、当然負けたほうも自分の中にいて、しばらくそちらに頭と体を占領される。たぶん、ラスボスはこいつなんだと思う。もはや世の中の定型文でしかない「本当の相手は自分」だなんて言葉。あれもあながち嘘ではなかったんだな。

 

もう前を向くしかなくなった。選んだのは自分だ。
本当はそんなに難しく考えなくていいんだ。
僕は、今一番大切なものと、「今」という時間を選んだ。それだけだ。

 

少しだけワクワクする。
強がりでもいい。馬鹿でもいい。笑われたっていい。
この選択を、正解と言える選択を。
それが誰かの不正解でも。

 

もう後戻りはできねーぞ。

 

2017.07.30

 

環境は人を変えたりしない。

人が環境で変わるんだ。

 

ストレスで倒れて入院した時、病院のベッドから窓に向かって、誰かのせいにすることを覚えた。

 

仕事でストレスが溜まるのはあいつのせい。

肺に穴が空いたのは奴らのせい。

これがこの街ではもはや日常茶飯事なのは社会のせい。

綺麗な景色はたくさんあるのに一向に世の中が良くならないのはこの国のせい。

僕が幸せになれないのは、世界のせいだ。

 

傷を泥で覆い隠した。

唯一、自分を守る手段だった。

すっかり汚れた心に気づいたのは、ついさっき。

新幹線の車窓から、川の向こうに高層ビルが見えた時。

 

洗い流せるだろうか。いいや、無理か。

じゃあいっそ磨いてやるくらいはできるか。

もう誰も触れたくなくなるような、僕だけのデザインをしようか。

自分だけの色で、汚そう。

 

だったら、僕の居場所はここではないよな。

綺麗な景色を知っているんだ。そこに行こう。

逃げてやるよ。

お前は逃げなかったんだろう。僕は逃げるよ。

 

喜怒哀楽の、怒と哀から逃げ続けた男の末路をそこでじっと見ているがいいさ。ざまあみろ。

 

気分がいい時に、決意表明。

これで気分がいいなんてさ、笑えるだろ。

汚れてんだよ。

 

 

 

 

 

2017.07.13

踏み切りで鳴る警告音が、電車に切られて嫌にうるさい。
こちらとあちら。
たかが棒一本で区切られて、僕は前から2番目で待っている。
通り過ぎて数秒、風に吹かれて視界が狭まる。
伸びっぱなしの前髪は、もはや自信喪失の象徴でしかない。

 

疲弊した心は後ろを向くとはよく言うが、
きっと本当は行き場を失うんだ。ただ彷徨うだけ。

 

冷めた弁当を食べながら、眺めるディスプレイに昔の女。
「結婚するか」と片手で送る。
「いいよ」と数秒で帰ってくる。
僕はあいつのこういうところが嫌いだった。

 

シャワーを浴びたら戦場へ。
アドレナリンが濡れた髪を乾かす。
缶チューハイが脳内を侵食したらショットガン。
後は暴れるだけ。全てを忘れる、今だけ。
スナイパーに撃ち抜かれて、我に返ったら消灯。

 

硬いベッドに寝転んで、
イヤホン越しの寝ぼけた声。
この瞬間。
いつも「もう少しだけ」と願う。
僕は僕のこういうところが嫌いなんだ。

 

2017.07.12

 

工数、人月単価、人売り、人売り、

要らなくなったら切り捨てて。

 

フォーマット通りの設計書、人生設計書。

妥協と惰性で蔓延る、日の当たらないオフィス。

裏口のベンチを見下ろす、灰色の空とか。

 

「仕方ない」と呟けば、とりあえず今日に意味を見出して。

心臓に溜まった腐った血液も、コンビニ弁当に溶け込んで。

終末思想を、こじらせて。

 

 

きっと、あいつはもう時期、切られる。

ババを引いたのは、彼の方だったんだ。

だから、落ち込むことはないよ。

 

仕方ない、なんてことは、絶対にないよ。