爽やかな逃走

僕らの旅を「青春」なんて名付けて過去にすんな。

2017.06.03

 

畜生。

 

あんたの歌を目の前で聴くのは、これで何回目かは忘れたが、涙した数も同じだってことは覚えてる。

 

いつもあんたは僕の代弁者だ。この、どうしようもないやり場のない感情を、あんたは言葉に紡ぐ。それが僕は悔しい。

 

それだけ救われた。今日も、また。決意できた気がするんだ。ありがとう、なんて言いたかねえや。まだ終わってねえからさ。挫折とか、後悔とか、不安や虚無感が、僕が諦めるのをずっと待っているんだ。これもあんたの言葉だが、全く、その通りだと思うよ。

 

だからこそ、僕はまだ抗うよ。いつか、あんたの言葉を借りずに、僕は、僕を律して見せる。笑ってやろうぜ、なぁ。僕を笑ったやつと、くそったれな思い出をさ。

 

僕は誰よりも生きるのに真面目なんだ。それは自分が一番分かってるはずだ。なんとかなるだろ。

 

 

 

 

 

2017.05.31


そうしているうちにも時は過ぎて、
帰り際、あの子を見送ったバス停も古くなる。
思い出は、新しいタイムラインに貼り変わって、
雨に濡れ、雫が滲めば、もう見えない。

 

種が死んだ理由を、
探し続けて幾年が経ち、
未だ出ぬその答えはきっと、
単気筒、横たわる煙のみぞ、知る。

 

三鷹駅。満員電車の静寂を、
初夏の太陽が笑う頃、
ちょうど、横薙ぎのビル風に、
故郷の景色が浮かんだら、
ため息でそっと、空を切る。

 

思いを馳せて、

思いを馳せて。

2017.05.30

 

中央線、東小金井駅から武蔵境駅の間、地平線から空を刺す鉄塔群に見惚れる。

 

あれだけの存在感を放っておきながら、妙に風景に溶け込んでいるのはなぜだろうか。できれば僕もあの鉄塔のように、誰に気付かれずに、干渉されずに、大きく育ちたい 。ここ、多数決の蔓延る東京の街じゃ、とても叶わない話だが。だが諦めない。僕は、大人にはならない。1年前、そう決めた。

 

今日も怒られた。どうやら僕は、どこの現場に行っても嫌われるようだ。そうか、ここまで来れば、いよいよ悪いのは僕のようだ。他人の評価を気にしないのも、納得が行かなければすぐに反論するのも、定刻になればすぐに退社するのも、くだらないルールも、今朝電車が止まったのも、排他的経済水域にミサイルが落ちるのも、ファミレスで発砲事件が起きるのも、全て僕が悪いんだろうな。

 

畜生。妥協でされるがままの搾取なんて、ごめんだ。僕が世界で最後のひとりになった時に、初めて後悔してやる。ざまあみろって叫んで、泣きながら喉を掻っ切るんだ。

 

三日月が綺麗だよ、と彼女が言った。

ごめんな。満員電車の車窓には、何にも映らないよ。

 

 

2017.05.29

襟足を切られる。

 

僕の後ろで、綺麗な女性が時折、ハサミに髪を引っ掛ける。一瞬、ツンとする痛み。あ、すみません、痛かったですか?と申し訳なさそうに訊く。いえ、大丈夫ですよ。と答える。痛いの嫌いじゃないですし、とは言わなかった。その後、同じ下りをもう2回ほど繰り返す。

 

美容室でシャンプーをされている時ってのは、僕の人生で最も無防備な瞬間だと思う。顔に薄い紙を被せられ、「はい」しか回答方法のない質問にいくつか答える。

 

こめかみに指を押し込まれる感覚で、目を開ける。大人しそうな女性なのに、まぁ、強い。僕は美容院のこういうところが、結構好きだ。男性がやたら繊細なシャンプーをしたり、女性がやたら強めなヘッドスパをしたり、よく喋って切りすぎる人だったり、切るのに夢中で喋らない人だったり。

 

ドライヤーを終えると、女性は、少し癖毛の僕に、前髪だけアイロンをかけてくれた。最初から気づいていたが、どうやら女性は妊婦のようで、そんなにお腹が大きいなら働かなけりゃいいのに、と思う。そうもいかないんだろう。これから産まれるその子のために、彼女も頑張らなければいけないんだ。敬礼。

 

まだ乾き切っていない前髪の水分が蒸発する音を聞いた。アイロンの隙間から水蒸気が上がる。背中が冷や汗で湿った。命が消える音と、少し似ている。

 

 

2017.05.28

 

なんとなく、蓋をされて生きて来たんだな、と思う。

 

なぁ、先生。

眉を剃ってはいけない理由を、髪を染めてはいけない理由を、僕は教えて欲しかったんだ。

 

なぁ、母さん。

夢には時効があるってことを、僕は先に知っておきたかった。

 

なぁ、親友。

「君なら大丈夫さ」って言った理由を、僕は聞いておくべきだったんだ。

 

時、既に遅し。いつの間にか築かれていた壁の存在に気づく頃に、僕らは「大人」になる。

 

足元に散らばるキラキラしたそれを、傷だらけのそれを、僕らが「思い出」と呼ぶそれらを、「青春」という名の箱に、綺麗にラッピングをして、しまう。

 

その箱が埃をかぶり始めた頃、君たちは人を笑い始める。いつまでもそれを大事そうに抱える僕も含めて、笑い始める。

 

此処ではないどこかを探す。それはきっと、この壁の向こうに違いない。

 

思いっきり助走をつけろ。迷うな。後ろを振り返るな。もう少し、もう少しだ。出来るだけ急げよ。

 

でなきゃ、きっとこの街に殺される。

 

 

2017.05.26

眠気まなこをこすって、朝食を取りながら携帯を触る。目覚めに浴びるブルーライトは少しばかり痛い。今日の悲しいニュースを探す。

 

最近のトレンドは専ら「ミサイル」だ。今日はその上で芸能人が結婚したらしい。笑顔の足元でミサイルがかすめる。丁度いい、なんて思う。今朝のニュースはパンによく合う。

 

悲しいニュースばかりに怯えて暮らしていたら、常にそいつにアンテナを張ってることに気付く。悲しみに飢えていることに、今更に気付く。

 

相対的に自分の幸せを噛み締めたい訳じゃない。開き直りたいだけだ。いつか、世界に期待した分だけ、嘲笑いたいだけだ。そうすれば、今日は何とか凌げる。

 

朝から立川駅は酔っ払っていて、人いきれで胃が重くなる。中央線、東京行、エスカレーターですれ違った女からすっと甘い香りがしたから、まだ終わらなくてもいい。なんて思った。