爽やかな逃走

僕らの旅を「青春」なんて名付けて過去にすんな。

2017.08.02


想像ではもっと晴れやかな気持ちのはずだったんだが。
これは後悔か、罪悪感か、はたまた失望か。

 

未来は明るいかな。これからどうなるんだ。
そんなことを考えながら、小雨の中を、傘を蹴りながら歩いた。

 

イヤホンをつけて再生ボタンに指を近づけたところで、見知らぬおじさんに話しかけられる。道を聞かれたからスマホで調べてやったら「便利」だの「これからは若者が活躍する時代」だの「俺が若いころは」だの、あれこれと関係のない話を始めた。終いには「いいか!上司の言いなりになんてなるなよ!」と謎の激励。「日本の未来を頼むぞ!」と謎の責任転嫁。

 

「いやおじさん、俺、たった今辞めるって言ってきたところで」
「そんでな!俺が若いころはな!」

 

だめだ、聞いちゃいねえ。
まぁいいか。僕も少し気が紛れた。
聴こうと思っていた曲よりも少し明るめの曲を流す。

 

あいつ、本当は話相手が欲しかっただけなんだろうな。

 

 

 

少しだけ遠回りして仕事場へ戻ることにした。

 

僕は1年前、あの町を出て、この街で流されて、何度も後悔して、そして今日、ようやく自分で選んだ。今日は、初めて自分に勝った記念日なんだ。そう何度言い聞かせても、どうも気分が上がらない。

 

いっそ怒鳴ってくれれば良かったんだが、こんな時だけ妙に優しかった。引き留めたいが為かもしれない。それでもあの目は、大人が優しいときに見せる目だった。いや、もしかしたら最初からそうだったのかもしれない。目を合わせなかったのは、いつまでも拒絶していたのは、きっと僕のほうだ。本当はもっと上手くやれたんじゃないのか。これ以外にも、選択肢はあったんじゃないのか。

 

自分に勝ったとは言え、当然負けたほうも自分の中にいて、しばらくそちらに頭と体を占領される。たぶん、ラスボスはこいつなんだと思う。もはや世の中の定型文でしかない「本当の相手は自分」だなんて言葉。あれもあながち嘘ではなかったんだな。

 

もう前を向くしかなくなった。選んだのは自分だ。
本当はそんなに難しく考えなくていいんだ。
僕は、今一番大切なものと、「今」という時間を選んだ。それだけだ。

 

少しだけワクワクする。
強がりでもいい。馬鹿でもいい。笑われたっていい。
この選択を、正解と言える選択を。
それが誰かの不正解でも。

 

もう後戻りはできねーぞ。